中谷有逸展 追憶・帯広の刻
- 廊主

- 11月24日
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2025年10月、中谷有逸先生が89歳で永眠されました。
画家として、教育者として、そして地域文化の礎を築いた活動家として・・・その歩みは、
休むことなく常に精力的で、深く、確かなものでした。
本展は、先生の逝去に際し、これまでのご功績への感謝と敬意を込めて足跡の一端を
振り返るものとして企画しました。
中谷先生は、抽象的な版画作品で知られる一方、帯広の街並みに深い愛着を抱き、
建物をモチーフとした作品を数多く残しました。とりわけ、1970〜80年代にかけて描かれた
市庁舎や学校にはじまり「平原通界隈」などは、街の記憶を静かに封じ込めたタイムカプ
セルの佇まいを見せています。
描かれた水彩のにじみは、曖昧な記憶の輪郭をなぞるように、
油彩の重なりは、そこに刻まれた人々の営みや、季節の気配を静かに語り、
時間の層をまとった記憶の風景は積み重なり過去から現在、そして未来へと時間を紡い
でいきます。
教育者として帯広柏葉高校で多くの若者を育て、平原社や帯広版画協会の設立、
道立美術館の誘致運動など、地域文化の礎を築いたその功績も忘れることはできません。
しかし、先生が最も雄弁に語ったのは、やはり絵の中でした。
その作品には、風景を通して「連綿と続く人の営み」を伝えようとする意志が宿っています。
それは、失われゆくものへの惜別であり、同時に、今ここにあるものへの深いまなざし
でもありました。先生にとって絵を描くことは、土地とともに生きること、そしてその土地に
刻まれた記憶を未来へと手渡すことだったのでしょう。
過ぎ去ってゆく時の流れを、懸命に描くことで積み重なる塊として留め置く。
筆と版を通して語られる沈黙の言葉は、今あらためて、私たちの心に響き続けています。
中谷有逸先生の長年にわたるご尽力と残された作品たちに心からの敬意と感謝を込めて。
どうぞ多くの皆様にご高覧賜りますよう、心よりご案内申し上げます。





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